遺産分割調停中は、無断欠席・財産の無断処分・感情的な言動・虚偽の説明などが、相続人間の話し合いを難しくしたり、自身の主張が十分に考慮されなかったりする原因になります。
目次
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)だけでは遺産の分け方について合意できない場合に、家庭裁判所の調停委員会(裁判官と調停委員)を交えて話し合いを行う手続きです[1]。
裁判所が分割方法を一方的に決定するものではなく、あくまで当事者双方の意向を踏まえた合意形成を目指す点に特徴があります。
調停委員は当事者双方の話を個別に聞きながら進行することが多く、必ずしも相続人全員が同じ場で顔を合わせて話す形式ではありません。
調停の流れと1回あたりの期日・全体の期間の目安
調停の期日は、原則として平日の日中に、家庭裁判所の指定した日時に開かれます。
1回の期日にかかる時間や次回期日までの間隔は、事案や家庭裁判所の運用によって異なります。
合意に至るまでに必要な期日の回数や全体の所要期間は、相続人の人数や財産の内容の複雑さによって大きく異なり、半年程度で終わることもあれば、1年以上に及ぶこともあります。
あらかじめ短期間での解決を前提にせず、余裕を持ったスケジュールで臨むことをおすすめします。
遺産分割調停中にやってはいけない6つのこと
遺産分割調停は、相続人全員の合意形成を目指す話し合いの場です。
不適切な行動をとると、調停が不成立になったり、自身の主張が十分に考慮されなかったりするリスクが高まります。
遺産分割調停中のNG行動と法的リスクの一覧表
| 行動 | リスク・法的根拠 | とるべき対応 |
|---|---|---|
| 調停期日を無断で欠席する | 家事事件手続法51条3項・258条1項により、適式の呼出しを受けたうえでの正当な理由のない欠席は5万円以下の過料の対象となり得る | 出席する。欠席が必要なときは事前に事情を説明し、家庭裁判所に対応を相談する。 |
| 遺産に属する財産を無断で処分する | 民法906条の2により遺産分割の計算上は処分前の状態として扱われ得るほか、分割時の調整や返還請求の対象となる可能性がある | 無断で処分せず、必要な支出を他の相続人と相談する。預貯金の払戻しが必要なら民法909条の2等の制度を検討する。 |
| 感情的になって相手を攻撃する | 建設的な話し合いが妨げられ調停不成立につながり得る | 事実関係や希望を整理して伝える。 |
| 調停委員に嘘をつく・事実を隠す | 発覚した際に主張全体の信用性を失うリスクがある | 不利な事実も正直に説明する。 |
| 相手の説明を聞かず、話し合いを妨げる | 話し合いによる解決が困難と判断される要因になり得る | 歩み寄りの姿勢を示す。 |
| 内容を十分確認せず調停条項に合意する | 調停調書は確定した審判と同一の効力を持ち後から覆すことが極めて難しい | 疑問があれば合意前に持ち帰って確認するか弁護士に相談する。 |
調停期日を無断で欠席すること|過料の対象となる法的根拠
裁判所の呼出しを受け、正当な理由なく欠席した場合、5万円以下の過料の対象となり得ます(家事事件手続法51条3項、調停手続への準用について同法258条1項)[3]。
呼出状の送達等、過料を科すことができる適式の呼出しがされているかも確認が必要です。
簡易な呼出しでの欠席が直ちに過料の対象になるとは限りません。
欠席が必要なときは事前に事情を説明し、対応を相談してください。
単に多忙であるといった理由では「正当な理由」として認められにくい傾向があります。
また、過料の対象になるだけでなく、無断欠席を続けると、自分が主張したかった特別受益や寄与分などの事情が十分に考慮されないまま話し合いが進んでしまうおそれがあります。
なお、出席しただけで寄与分が認められるわけではありません。
特別受益は具体的な主張・資料の提出を行い、寄与分は必要に応じて寄与分を定める審判の申立てを、裁判所の定める期間等に注意して行う必要があります。
遺産に属する財産を無断で処分すること|民法906条の2との関係
預貯金を無断で引き出したり、他の相続人の権利まで含めて不動産全体を売却したりするなど、遺産分割前に権限のない処分をすることは避けてください。
なお、法定相続分による相続登記のように、協議なしでできる登記もあり、名義変更のすべてが問題となるわけではありません。
民法906条の2では、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意があれば、その処分された財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができ、また処分をした相続人自身についてはその同意を得る必要がないと定められています[4]。
つまり、他の共同相続人が同意すれば遺産分割の計算上は処分前の状態として扱われるため、無断で処分を行っても、分割時の調整や返還請求の対象となる可能性があります。
なお、同条は処分そのものを無効にする規定ではなく、遺産分割の計算上の扱いを定めたものです。
「生活費が必要だから」という理由で遺産である預貯金を無断で引き出してしまうケースは実務上少なくありませんが、その場合は、後述する預貯金の仮払い制度という正規の手段を利用することをおすすめします。
感情的になって相手を攻撃すること|調停が不成立になる主な要因
調停は相続人全員の合意形成を目指す手続きです。
感情的な主張を繰り返すことは、建設的な話し合いを妨げ、調停の不成立につながりかねません。
前述のとおり調停委員は当事者双方の話を個別に聞く形式で進行するため、感情的な発言よりも、事実関係や自分の希望を整理して伝えることが重要です。
調停委員に嘘をつく・事実を隠すこと|主張全体の信用性を損なうリスク
事実と異なる説明をしたり、財産の存在を隠したりする行為は避けるべきです。
こうした事実が後から発覚した場合、その他の主張全体の信用性まで失われてしまうリスクがあります。
不利な事実であっても正確に説明したうえで自分の希望を伝える方が、結果的に調停委員の信頼につながります。
相手の説明を聞かず、話し合いを妨げること|合意による解決が難しくなる理由
自分の主張のみを一方的に繰り返し、歩み寄りの姿勢を見せない態度は、話し合いによる解決が困難であると判断される要因になり得ます。
他の相続人の意見にも耳を傾ける姿勢が求められます。
もっとも、納得できない条件に無理に合意する必要はありません。
正当な異論を維持することや審判を求めることが不誠実と評価されるわけではなく、審判は法的基準に基づき分割を決める通常の手続で、制裁ではありません。
内容を十分確認せず調停条項に合意すること|調停調書の効力と撤回の可否
調停が成立すると作成される調停調書は、遺産分割が別表第二の審判事項であるため、家事事件手続法268条1項ただし書により、確定した審判と同一の効力を持つとされています[3]。
そのため、内容を十分に確認しないまま合意してしまうと、後から内容を覆すことは極めて難しくなります。
合意内容に少しでも疑問がある場合は、その場で即答せず、一度持ち帰って確認する、または弁護士に相談してから合意するという対応が有効です。
どうしても調停期日に出席できない場合の対処法
仕事や体調などの事情で、どうしても調停期日に出席できないこともあります。
その場合は無断欠席を避け、適切な方法で対処しましょう。
弁護士に依頼し代理人として出席してもらう
本人が出席できない事情がある場合、弁護士に依頼し、代理人として調停に出席してもらう方法があります。
専門家が代理人として対応することで、期日への対応だけでなく、主張の整理や証拠の準備についてもサポートを受けられます。
ただし、弁護士が代理しても、裁判所が本人の出席を求める場合があります。
出席の要否や電話・ウェブ会議の利用は裁判所に確認してください。
事前に家庭裁判所へ連絡し、期日の調整を相談する
本人で出席できないやむを得ない事情がある場合は、無断で放置せず、事前に家庭裁判所へ事情を連絡して期日変更等の相談を行いましょう。
避けるべき行動を続けた場合に起こること|話し合いが難しくなり、主張が十分に反映されないおそれ
避けるべき行動を繰り返すと、相続人間の話し合いが難しくなり、合意による解決が困難として調停が不成立となることがあります。
調停が不成立になった場合、遺産分割の手続きは審判へ移行します。
審判は法的基準に基づいて分割を決める通常の手続きであり、移行すること自体が不利益というわけではありません。
審判では主張・資料を踏まえ法的基準で判断される
調停では当事者の合意によって柔軟な分割方法をとることができますが、審判では、家庭裁判所が法定相続分等の法的な基準と、当事者が示した主張・資料を踏まえて分割方法を決定します。
そのため、期日に対応しなかったり、特別受益の主張や寄与分を定める申立てなど、必要な主張・資料を示さなかったりすると、自身の事情が十分に考慮されないまま判断されるおそれがあります。
調停・審判のいずれの段階でも、必要な主張と資料を適切に示すことが大切です。
調停中に生活費が必要になったら|勝手に引き出さず預貯金の仮払い制度を使う
当面の生活費や葬儀費用などのためにまとまったお金が必要になる場面は少なくありません。
そのような場合のために、法律上の正規の手段として預貯金の仮払い制度が設けられています。
民法909条の2に基づく仮払い制度の概要と上限額・手続きの流れ
民法909条の2により、各相続人は、遺産分割が終わる前であっても、遺産に属する預貯金債権のうち「相続開始時の預貯金債権額 × 3分の1 × 自己の法定相続分」に相当する額について、単独で金融機関から払い戻しを受けることができます[4]。
ただし、同一の金融機関から払い戻しを受けられる額は150万円が上限とされているため、実際に引き出せるのは上記の計算額と150万円のいずれか低い方の金額になります。
手続きにあたっては、被相続人の死亡や相続人であることを証明する戸籍謄本等の書類を金融機関に提出する必要があるため、事前に必要書類を確認しておきましょう。
まとめ|不安な場合は自己判断せず専門家に相談を
遺産分割調停中は、裁判所や他の相続人への不適切な対応を避けることが重要です。
欠席せざるを得ない場合や、生活費のためにお金が必要な場合には、それぞれ正規の対処法があります。
対応に迷う場合は、自己判断で行動せず弁護士へ相談することをおすすめします。
相続に関するお悩みは、泉法律事務所(徳島県鳴門市)へご相談ください。
電話:088-685-8120(受付時間:平日9:30〜17:00)。
お問い合わせフォームからのご相談も可能です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。
具体的な対応については、弁護士にご相談ください。
当事務所の相続問題における具体的なサポート内容や費用については、相続のご相談ページをご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 遺産分割調停にかかる費用の目安はどれくらいですか?
家庭裁判所への申立てにかかる実費は、収入印紙代が被相続人1人につき1,200円、予納郵券(郵便切手)が相続人の人数に応じて数千円程度必要になります。
具体的な金額は申立先の家庭裁判所によって異なるため、申立て前に管轄の家庭裁判所へご確認ください。
弁護士に依頼する場合は、別途着手金・報酬金等の費用が発生し、金額は事案や依頼先の事務所によって異なるため、相談時に見積りを確認することをおすすめします。
Q. 一度成立した遺産分割調停を取り下げる・やり直すことはできますか?
調停が成立すると作成される調停調書は確定した審判と同一の効力を持つとされているため、成立後に当事者の一存で取り下げたりやり直したりすることは原則として認められていません。
合意の際に重大な錯誤や詐欺・強迫があったといった特別な事情がある場合に限り、別途法的な手続きで効力が争われる余地はありますが、通常は極めて困難です。
Q. 相手方が調停に出席しない場合でも手続きは進められますか?
相手方が欠席しても、出席した当事者だけで期日は開かれ、家庭裁判所から欠席者へ連絡して次回期日の調整が行われるのが一般的です。
ただし、遺産分割調停は法定相続人全員の合意がなければ原則として成立しません。
相手方の欠席が続く場合の対応については、審判への移行も含めて弁護士にご相談ください。
参考文献
[1] 裁判所「遺産分割調停」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html)
[2] 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html)
[3] e-Gov法令検索(デジタル庁)「家事事件手続法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052)
[4] e-Gov法令検索(デジタル庁)「民法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)
