
交通事故は、誰にとっても予測できない突然のトラブルです。
事故発生後には「どう動けばよいのか」「示談はどう進めたらいいのか」など戸惑う方も多いでしょう。中でも示談は、流れや注意点を知らずに示談を進めてしまうと、本来受け取れるはずの示談金が減額されたり、後から請求できなかったりなどのリスクがあります。
損をしないためにも、正しい知識を身につけて慎重に対応することが大切です。
この記事では、交通事故から示談までの流れ、交渉の注意点を紹介します。
交通事故の示談とは
交通事故の示談は、被害者と加害者が裁判を行わずに話し合いによって損害賠償内容を決め、最終的な解決に合意するための手続きです。
ここでは、交通事故の示談について詳しく解説します。
示談金の内容
示談金は、交通事故による損害を金銭で補うもので、その内容として以下が挙げられます。
- ・治療費:病院での治療や通院にかかった実費
- ・慰謝料:事故による精神的苦痛への賠償
- ・休業損害:事故による休業や減収分の補償
- ・物的損害:車両や持ち物に対する修理や買い替え費用
これらが合算されたものが最終的な示談金となり、各項目ごとの金額については、証拠書類をもとに算定・提示されます。
保険会社から提示される金額が適正かどうかを判断するためにも、各項目の金額査定の根拠をしっかり確認することが大切です。
示談金で知っておきたい過失割合
示談金の額は、事故当事者それぞれの過失割合によって大きく変わります。
過失割合は、過去の事故例や凡例、道路状況などから客観的に決められ、被害者側にも落ち度があると、その分だけ示談金が減額されます。例えば、加害者9割、被害者1割とされた場合、被害者の過失割合である1割を差し引いた金額が示談金です。
保険会社同士の話し合いで過失割合が提示されることが多いですが、納得できない場合は異議を申し立てたり、裁判で争うことも可能です。
示談金の相場
示談金の相場は、事故のケースやケガの程度によって大きく異なり、軽傷なら数万円から数十万円、重症や後遺障害があれば数百万から数千万円になる場合もあります。
治療費や修理費などの実費は、発生した金額がおおよその基準となりますが、慰謝料は通院日数や入院期間、後遺障害等級によって異なります。
このように交通事故の示談金には「これが正解」という一律の相場はなく、ケースごとに個別計算が必要です。
慰謝料との違い
慰謝料とは、示談金に含まれる精神的損害に対する補償金であり、示談金のすべてではありません。
示談金には慰謝料のほか、治療費や休業損害、物的損害など複数の損害項目が合算されています。慰謝料はけがを負った精神的・肉体的苦痛に対する補償で、特に後遺障害や長期通院の場合に大きなウエイトを占めます。
一方、修理費や実際にかかった治療費などは慰謝料に含まれないため、慰謝料=示談金と混同しないように注意が必要です。
交通事故から示談までの流れ
示談交渉を円滑に進めるためにも、交通事故から示談までの流れを把握しておきましょう。
ここでは、交通事故から示談までの流れを詳しく解説します。
【ステップ1】救護活動と安全確保
交通事故直後は、人命救助と二次被害の防止が最優先です。
負傷者がいる場合は119番に連絡し、救急車を呼んで対応しましょう。自身が歩行者や自転車の場合も、事故現場では二次被害の危険性があるため、できるだけ安全な場所に移動することが大切です。
また、交通事故証明書の発行が必要となるため、物損事故でも人身事故でも、必ず警察に連絡します。
警察への連絡は法律でも定められており、通報しないと「報告義務違反」にあたり、罰則の対象となるケースもあるため注意しましょう。
【ステップ2】事故の記録と相手の情報を確認
意識があり、動ける状態であれば、事故の状況を写真やメモで記録し、相手の情報を確認しておきましょう。
スマホで現場状況、車の損傷、信号の有無などを撮影しておくと、後々の証拠となります。
相手の情報は、運転免許証や保険証を確認し、下記の情報を記録しておきましょう。
- ・氏名
- ・住所
- ・連絡先
- ・車のナンバー
- ・加入している保険会社の情報
可能であれば、目撃者の連絡先なども聞いておくと、過失割合に関する証明に役立ちます。
現場での証拠収集は後の示談や訴訟で大きな力を発揮するため、できるだけ多く、早い段階で記録を残しましょう。
【ステップ3】保険会社への連絡
事故に遭ったら、できるだけ早く自身が加入している保険会社に連絡を入れましょう。
連絡が遅れてしまうと、補償対象にならない場合もあるため注意が必要です。保険会社には、事故状況やけがの程度などを伝えるとともに、今後の流れについての説明を受けましょう。
相手の保険会社が対応窓口になる場合でも、自分の保険会社に一報を入れておくと安心です。
【ステップ4】医療機関への受診
交通事故のケガや後から痛みや不調が出ることも多く、自己判断で処置せずに必ず病院を受診しましょう。
外傷が軽く見ても、正式な診断を受けておくことで治療費や慰謝料の請求が可能となります。受診先は整形外科など、交通事故対応に慣れている医療機関を選ぶのがおすすめです。
診断書は後の示談交渉で重要な資料となるため、忘れずに発行してもらいましょう。
【ステップ5】治療
病院で診断を受けたら、「完治」または「症状固定」と診断されるまで医師の指示に従って治療を続けることが大切です。
治療の中断や勝手な判断での通院終了は、すでに治ったとみなされてしまい、慰謝料が減額される可能性もあります。通院日数や頻度は慰謝料算定に直結するため、無理のない範囲で継続的に通院することが大切です。
費用については、基本的に相手の保険会社がカバーしますが、領収書や通院記録などは自身で保管しておきましょう。
【ステップ6】示談交渉
治療が終了すると、加害者側の保険会社から示談金の提示があります。
提示内容には治療費や慰謝料などが含まれていますが、必ずしも適正額とは限りません。不明点がある場合、金額に納得がいかない場合は、丁寧に理由を尋ね、変更を求めることもできます。
弁護士基準での再試算を求めることによって金額が大きく変わるケースも多いため、交通事故に詳しい弁護士に相談することも検討しましょう。
【ステップ7】示談成立
提示された条件に納得できれば、示談書に署名・押印して正式に示談成立です。
示談書には、示談金の額、支払い方法、今後の請求放棄などが細かく記載されています。この書面は保険会社と当事者の間で交わされる重要な法的書類であり、後から条件を変更したり、新たな請求をしたりするのはできないため注意が必要です。
内容をチェックして、不明点があればその場では署名せず、保険会社や弁護士に相談しましょう。
後悔しないためにも、すべてに納得したうえでサインすることが大切です。
交通事故の示談の注意点
交通事故の示談は、結論を急がずに慎重に進めることが大切です。
ここでは、交通事故の示談において特に注意すべき点を解説します。
示談は撤回できない
示談は一度成立すると、原則として撤回や変更ができないため注意しましょう。
示談書に署名・押印した時点で、今後の損害請求を放棄することになります。たとえ、後から症状が悪化しても、その内容が示談書に含まれていなければ、追加請求することは困難です。
焦って示談を進めてしまうと、本来受け取れるはずだった補償を逃してしまう可能性もあります。
ただし、例外的に以下の特別な事情があるときは、示談の訂正や撤回、追加請求が認められるケースもあります。
- ・想定できなかった後遺障害が示談成立後に発覚
- ・錯誤・詐欺・脅迫・重要部分の誤認があった場合
- ・被害者に意思がなかったことを加害者も知っていた場合
これらはあくまでも例外的であり、認められるかどうかは事案ごとに慎重な判断が必要です。
内容に不明点があれば、その場で即決するのではなく、納得するまで専門家に相談することをおすすめします。
事故現場での当事者間解決はしない
事故現場での口約束や金銭のやりとりなど、当事者間で解決をすることは厳禁です。
現場での示談は正当な手続きとならないことが多く、保険を使えない可能性があります。その場で「お金を払うので警察を呼ばないでほしい」と言われても、後々のトラブルの原因になりかねないため、必ず警察に連絡を入れることが重要です。
軽微な事故でも、現場での自己解決は避け、必ず正式な手続きを行いましょう。
疑問や不安を解消してから示談を行う
示談する前に、すべての疑問や不安を必ず解消しておきましょう。
結論を急いでサインしてしまうと、思わぬ損失を被るリスクがあるため注意が必要です。
治療費や慰謝料の根拠、過失割合の理由、補償範囲など、分からないことが一つでもあれば、そのまま合意しないようにしましょう。提示された内容や金額に納得できない、説明が不十分と感じた場合は、専門家や第三者機関の意見を求めたり、再交渉を申し入れたりしても問題ありません。
示談交渉は被害者の権利を守るためのものであり、納得したうえで示談に進むことが大切です。
人身事故で示談交渉する
交通事故によって少しでもケガがある場合は、必ず人身事故として対応し、示談交渉も人身事故として進めましょう。
物損事故扱いにしてしまうと、治療費や慰謝料、休業損害など、本来請求できる示談金が認められなくなる可能性があります。事故直後は症状が軽いと感じていても、数日後に痛みや後遺障害が現れるケースも少なくありません。
本来なら適正な損害賠償をうけられるはずが、物損事故として処理されたことで、十分な補償を受けることができなかったというトラブルも多く発生しています。
必ず医療機関で診断を受け、診断書をもとに警察へ人身事故の届出を行い、正確な手順で損害賠償を請求できる体制を整えましょう。
加害者が無保険の場合もある
加害者が任意保険に加入していないケースも想定し、冷静かつ迅速に対応しましょう。
交通事故の加害者が任意保険に入っていない場合、被害者自身が自賠責保険を活用して、被害者請求を行うことができます。ただし、自賠責保険は最低限の補償を目的としたものであり、重度障害や死亡事故、長期的な治療が必要なケースでは損害全額を賄うことができません。
さらに、加害者に支払い能力がなく、自己負担分の賠償が受けられないという現実的な問題もあります。
こうした状況においては、自身が加入している任意保険の人身傷害補償保険や無保険車障害特約などの特約で不足分を補える場合もあります。
手続きや請求方法が分からない場合は、保険会社や交通事故に詳しい弁護士への相談が安心です。
損害請求権には時効がある
損害請求権には時効があり、期限を過ぎると請求権を失うため注意が必要です。
一般的に、交通事故による損害賠償請求権の時効は、加害者や損害を知った日から次のように定められています。
- ・物損事故の損害賠償請求権の時効:3年
- ・人身事故の損害賠償請求権の時効:5年
時効の起算点は、事故日や加害者が特定された日からとなり、この期間を過ぎると、正当な理由があっても賠償請求は認められません。
交通事故後は示談交渉に時間がかかることも多いため、権利消滅を防ぐためにも速やかに専門家へ相談することが大切です。
まとめ
交通事故に遭った際は、冷静に安全確保や警察への連絡、相手方情報の確認など基本的な対応を徹底することが大切です。
その後はしっかりと治療を受け、必要な資料や証拠を整えながら、示談交渉を進めていきましょう。示談金の内容や過失割合、慰謝料との違いなどのポイントを正しく理解し、不利にならないように注意する必要もあります。
疑問や不安を残さず、納得のいく条件で示談成立を目指すことが、後悔しないための一番の近道です。
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