山の相続には木材収益や土地活用といったメリットがある一方、固定資産税や管理責任、境界確定の難しさといったデメリットも伴います。
判断を誤らないために、両面と必要な手続きを正しく理解することが大切です。
主なポイントは以下の3点です。
- ・山林相続の代表的なメリット
- ・見落としがちなデメリット・注意点
- ・相続後に必要な届出や、負担が大きい場合に手放すための選択肢
目次
「山を相続する」とは?山林・森林・原野の違いを整理
山林・森林・原野の違いと、登記地目との関係
不動産登記における「地目」には「山林」「原野」といった区分があります。
山林は耕作の方法によらないで竹木が生育する土地、原野は耕作の方法によらないで雑草・かん木類が生育する土地を指し、いずれも登記簿上の土地の用途区分です。
一方、森林法上の届出義務などの対象となる「森林」は、この登記上の地目とは別の概念です。
森林法では木竹が集団して生育している土地などを森林としており、そのうち都道府県が定める地域森林計画の対象となっている森林が、後述する所有者届出制度の対象になります。
つまり、登記地目が「山林」でなくても森林法上の「森林」に該当することもあれば、その逆もあり得ます。
相続財産に山林が含まれていることには、固定資産税の課税通知や遺産分割協議の場で初めて気づくことも少なくありません。
まずは登記地目と現況を確認したうえで、承継するか手放すかを判断しましょう。
山を相続する5つのメリット
木材の売却・林業としての活用
立木を売却したり、林業経営として継続的に活用したりすることで収益化できる可能性があります。
ただし、木材価格や立地条件、樹齢によって収益性は大きく左右されるため、必ず利益が出るとは限りません。
土地の貸し出しによる収益化
自治体や林業関係者、レジャー事業者などに土地を貸し出すことで、賃料収入を得られる可能性があります。
土地の立地や条件によって借り手が見つかるかどうかは異なります。
太陽光発電など土地活用の可能性(保安林指定・林地開発許可の確認が前提)
適地であれば、太陽光発電用地としての利用など土地活用の余地があります。
ただし、土地が保安林に指定されている場合は伐採や形質変更に制限があり、また一定規模以上の開発行為には都道府県知事等による林地開発許可が必要になる場合があります。
活用を検討する際は、まず対象地が保安林や地域森林計画区域に該当しているかどうかを確認することが前提になります。
宅地に比べて相続税評価額が低く抑えられるケースがある(山林の評価方法)
山林の相続税評価は、純山林・中間山林であれば原則として固定資産税評価額に国税庁が公表する倍率を乗じる「倍率方式」で行うため、同程度の面積・立地の宅地に比べて評価額が低く抑えられる場合があります。
一方、市街地山林は宅地としての価額から造成費相当額を控除する方式等で評価されるため、必ずしも低くなるとは限りません。
山林の区分は土地の所在地によって異なり、立木も別途評価が必要になるため、正確な評価額は税理士等の専門家にご確認ください。
レクリエーション・別荘地としての利用(開発規制の範囲内でできること)
キャンプや別荘用地として山を活用できる可能性もあります。
ただし、建築物の設置や土地の造成には法令上の許可を要する場合があるため、事前に可能な利用範囲を確認したうえで検討することが大切です。
山を相続する際に知っておきたいデメリット・注意点
山を相続するメリットとデメリットの比較表
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 木材の売却・林業としての活用 | 固定資産税など維持コストが発生することがある |
| 土地の貸し出しによる収益化 | 管理責任が問題となる |
| 太陽光発電など土地活用の可能性 | 境界が不明確で確定作業が難航しやすい |
| 宅地に比べて相続税評価額が低く抑えられる場合がある | 売却しようとしても買い手が見つかりにくい |
| レクリエーション・別荘地としての利用 | — |
固定資産税など維持コストが発生することがある
活用していなくても、固定資産税等の維持コストが生じることがあります。
ただし、同一市町村内で同じ人が所有する土地の課税標準額の合計が30万円未満であれば、免税点に該当し固定資産税は課税されません。
具体的な税額は評価額や自治体によって異なるため、対象地の課税状況は自治体へご確認ください。
管理責任(崖崩れ・倒木対策など)が問題となる
土地の所有者には、その土地を適切に管理する責任があります。
山林を放置したことにより崖崩れや倒木などが発生し、近隣に被害を与えた場合、所有者の法的責任を問われることがあります。
たとえば、倒木は竹木の栽植・支持の瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)があれば民法717条2項(工作物責任等)が、自然斜面の崩落は具体的な危険を認識しながら対策を怠った等、管理上の過失があれば民法709条(不法行為責任)が適用される可能性があります。
災害の状況や管理状態、占有者・所有者の立場等によって判断は異なります。
遠方に居住していて日常的な管理が難しい場合は、この点が大きな負担になり得ます。
境界が不明確で確定作業が難航しやすい
山林は宅地と異なり測量図が整備されていないことが多く、現地の状況と登記記録が一致しないケースも珍しくありません。
境界を確定する作業には時間と費用がかかりやすく、後述する相続土地国庫帰属制度の要件にも関わる重要なポイントです。
売却しようとしても買い手が見つかりにくい
山林は宅地に比べて需要が限られており、売却しようとしても買い手が見つかりにくい傾向があります。
必ず売れる、あるいは高値で売れるとは限らないため、売却を検討する場合は、時間に余裕を持って進めましょう。
山を相続したら必要になる届出義務と手続き
森林の土地の所有者届出|所有者となった日から90日以内(地域森林計画対象の森林が対象)
森林法に基づき、都道府県が定める地域森林計画の対象となっている森林の土地を、相続や売買などにより新たに取得した場合、面積を問わず、所有者となった日から90日以内に、その土地が所在する市町村長へ届け出る義務があります(林野庁「森林の土地の所有者届出制度」)。
相続の場合、死亡日から90日以内に分割協議が整わないときは、まず法定相続人の共有として届出を行い、後に協議が整ったら取得者がその日から90日以内に届け出ます。
死亡日から90日以内に分割協議を完了し取得者の届出を済ませた場合は、その届出で足ります。
相続登記とは別の制度のため、見落とさないよう注意が必要です。
なお、この届出を怠った場合や虚偽の届出をした場合には、森林法上、過料が科される場合があります。
相続登記(名義変更)との違い
2024年4月1日からは相続登記の申請が義務化されており、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該不動産の所有権を取得したことを知った日から原則3年以内に登記を申請する必要があります。
2024年4月1日前の相続にも経過措置付きで適用され、期限内に分割が決まらない場合は相続人申告登記等を検討します。
申告後に分割が成立した場合には別途登記が必要です。
これは不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する登記手続きであり、前述の森林法上の届出とは目的・提出先が異なります。
相続登記そのものの手続きの流れや必要書類については、法務局の案内をあわせてご確認ください。
相続放棄・国庫帰属を検討する場合の制約
相続放棄と相続土地国庫帰属制度の違い
| 比較項目 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 対象財産の範囲 | 山林だけでなく他の遺産も含めて一切相続しない | 不要な相続土地のみを対象にできる |
| 期限 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3ヶ月以内 | 期限の定めなし(ただし要件審査あり) |
| 費用 | 家庭裁判所への申述費用が中心 | 審査手数料(土地一筆当たり14,000円)および10年分の管理費用相当額の負担金 |
| 手続き先 | 家庭裁判所 | 法務局 |
相続放棄|山林だけを選んで放棄することはできない(他の遺産も一括放棄)
相続放棄は、山林だけを選んで放棄することはできず、預貯金や他の不動産を含む遺産全体について、一切相続しないという選択になります。
自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、期限を過ぎると原則として相続放棄はできなくなります。
山林の負担だけを理由に相続放棄を検討する場合は、他に相続したい財産がないかをあわせて確認しておくことが重要です。
また、相続放棄をすれば直ちにその土地と無関係になれるとは限らない点にも注意が必要です。
民法上、放棄した時点でその財産を現に占有していた場合には、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務を負います。
放棄後の取り扱いは個別の事情によって異なるため、山林の管理負担を理由に相続放棄を検討する場合は、事前に弁護士等の専門家へご相談ください。
なお、相続放棄・国庫帰属のほかにも、売却や贈与などの方法があり得ます。
ただし、相続放棄を検討中に山林や立木を売却・処分すると、法定単純承認により相続放棄ができなくなるおそれがあるため(民法921条)、処分前に確認してください。
相続土地国庫帰属制度とは(令和5年4月27日施行)
相続又は相続人に対する遺贈により土地の所有権・共有持分を取得した人等が、一定の要件の下で、不要な土地を国に引き渡せる「相続土地国庫帰属制度」が、令和5年4月27日に施行されました。
共有土地は共有者全員による共同申請が必要で、不要であるだけでは利用できません。
この制度は山林だけを対象に手放すことができる点で相続放棄とは異なります。
一方で、建物がある土地、担保権・使用収益権が設定されている土地、通路等として他人による使用が予定される土地、土壌汚染がある土地、境界不明・争いがある土地等は却下事由とされています。
一定の崖や管理困難な障害物等がある土地は、別の不承認事由として審査されます。
前述の境界確定の難しさが手放す際のハードルにもなり得ますが、境界が確定しただけで承認されるとは限りません。
利用にあたっては、土地一筆当たり14,000円の審査手数料に加えて、国有地の管理に要する10年分の標準的な費用相当額を負担金として納付する必要があり、森林は面積に応じて負担金額が変動する土地区分に該当します。
山の相続に関するよくある質問
Q. 相続した山林の固定資産税は、どのくらいの頻度で誰に請求されますか?
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に対して市町村から課税されます。
相続登記が済んでいない間も課税自体は行われるため、納税通知書の送付先や共同相続人間での負担方法をあらかじめ決めておくと、支払い漏れや相続人同士のトラブルを避けやすくなります。
取り扱いは自治体によって異なるため、詳細は土地の所在する市町村へご確認ください。
Q. 山林を相続税評価額のまま売却できますか?
相続税評価額はあくまで税額算定のための評価額であり、実際に売却できる価格とは異なる場合があります。
売却価格は立地や買い手の有無などによって左右されるため、評価額どおりに売却できるとは限りません。
Q. 山林を民間企業や隣人に寄付・贈与することはできますか?
個人や法人への寄付・贈与自体は法律上可能ですが、実際には受け手を見つけることが難しい場合が多く、贈与税や不動産取得税などの課税が生じることもあります。
検討する場合は、事前に専門家へご相談ください。
まとめ|山の相続はメリット・デメリットを踏まえて判断を
山の相続は、「活用して収益を見込めるか」「管理と税負担を続けられるか」「手放す要件を満たせるか」の3つの視点から判断しましょう。
相続後は森林法に基づく届出(90日以内)が必要になる場合があり、負担が大きいと感じる場合は相続放棄や相続土地国庫帰属制度といった選択肢もあります。
山の相続について判断に迷われた場合は、泉法律事務所(徳島県鳴門市)までお気軽にご相談ください。
参考文献
[1] 相続土地国庫帰属制度の概要 (https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html) – 法務省
[2] 相続土地国庫帰属制度の負担金 (https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html) – 法務省
[3] 森林の土地の所有者届出制度 (https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/todokede/) – 林野庁(農林水産省)
[4] 固定資産 参照 (https://www.city.naruto.lg.jp/docs/2024042502733/) – 鳴門市
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