相続を考えるとき、「現金と不動産のどちらを財産として残すのがお得なのか」と悩む人は少なくありません。
それを判断する軸となるのは、節税効果や財産の分けやすさ、使い道の幅広さであり、双方のメリット・デメリットを十分に理解しておく必要があります。
この記事では、相続財産としての現金と不動産を徹底比較し、どちらがどのようにお得なのかわかりやすく解説します。
目次
相続財産の代表例は現金と不動産
相続財産として代表的なのが、預貯金などの金融資産と、自宅や土地、賃貸物件といった不動産です。
現金は評価額を把握しやすく、そのまま相続税の課税対象となります。一方で不動産は、路線価や固定資産税評価額といった指標を基に評価されるため、実際の取引価格よりも低い評価になるケースが多い財産です。
この評価方法の違いが、相続税額や相続人同士の分けやすさに大きく影響してきます。
そのため、「現金と不動産のどちらで残すか」を考える際には、単に総額だけでなく、評価額や分割のしやすさ、将来の運用・管理まで含めて検討することが重要です。
現金を相続財産にするメリット
相続財産を現金で受け取ることには、「使い勝手の良さ」「管理のしやすさ」「分けやすさ」「納税資金の確保」といった点でメリットがあります。
ここでは、そのメリットを具体的に解説します。
不動産より使い道の幅が広い
現金で相続した財産は、用途が固定されていないため、受け取った人の状況に合わせて柔軟に使える点が大きなメリットです。
生活費の補填や教育資金、住宅購入の頭金、ローン返済、医療・介護費用など、ライフステージに応じて優先度の高い支出に自在に充てることができます。
また、不動産のように「売却しないと使えない」「場所や用途が限定される」といった制約がありません。そのため、相続人の事情がそれぞれ異なる場合でも、一人ひとりに適した形で活用しやすいといえます。
管理の手間やコストを省ける
現金で相続すると、不動産を所有する際に伴う以下の管理・維持の負担とコストをほぼ避けられます。
- ・固定資産税
- ・都市計画税
- ・建物の修繕費
- ・管理費
- ・修繕積立金
- ・雑草除去
- ・境界管理など
特に遠方の土地や空き家は、現地確認や管理委託の手間も重くなりますが、現金であれば金融機関で口座を管理する程度で済みます。
高齢の相続人や忙しい相続人にとっても、負担を大きく減らすことができる選択肢です。
遺産分割を平等かつスムーズに調整できる
相続人同士のトラブルを防ぎたいなら、現金は「最も分けやすい財産」といえます。
現金は1円単位で分け合えるため、法定相続分どおりに平等に分けたい場合や、兄弟姉妹間で不公平感をなるべく出したくない場合に非常に扱いやすいです。
不動産のように「誰が物件を取得するか」「代償金をいくら支払うか」といった複雑な調整が不要で、金融機関での払い戻しや振込によって、比較的短期間で遺産分割をまとめやすくなります。
結果として、遺産分割協議の長期化や感情的な対立のリスクを抑えやすい点も、現金相続の大きなメリットです。
相続税の納付に原資を充てられる
相続税の納税資金を確保しやすいことも、現金相続の強みです。
相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、原則として現金一括で納付しなければなりません。遺産の多くが不動産の場合、短期間での売却や資金化が大きな負担になることがあります。
あらかじめ一定額を現金で相続していれば、その現金をそのまま相続税の納付に充てることが可能です。したがって、自分の貯蓄を取り崩したり、不利な条件で不動産を急いで売却したりするリスクを抑えられます。
特に相続税の発生が見込まれる家庭では、「どの程度を現金として残すか」を事前に計画しておくことで、無理のない納税とスムーズな手続きにつながります。
現金を相続財産にするデメリット
現金を相続財産とした場合、「相続税が高くなりやすい」「資産が減りやすい」といったデメリットもおさえておく必要があります。
ここでは、不動産と比較したときに現金相続が不利になり得る代表的なポイントを解説します。
不動産より相続税が高くなる
現金を相続する場合の大きなデメリットは、同じ時価でも不動産より相続税が高くなりやすいことです。
相続税において、現金や預貯金は「額面どおり100%」で評価される仕組みです。
不動産の場合、土地は路線価等で評価され、地価公示価格などに基づいて「80%程度」を目途に定められるため、市場での取引価格より低くなることがあります。さらに、自宅や事業用の土地については「小規模宅地等の特例」が使えるケースもあり、要件を満たせば評価額を大きく圧縮できます。
現金そのものには、不動産のこうした評価減の仕組みがありません。そのため、同額の財産であっても相続税の負担が重くなりやすい点がデメリットといえます。
資産の目減りや使途不明金が発生しやすい
現金は自由に使える反面、「いつの間にか減っている」「何に使ったのか分からない」という状態になりやすい点も注意が必要です。
不動産のように形が残る資産と違い、現金は生活費や買い物などに少しずつ使われていくため、長期的に見ると想定以上のスピードで目減りしてしまうことがあります。
また、相続人が複数いる場合、一部の相続人だけが預金口座を管理していると、「いつ、いくら引き出されたのか」「正当に使われたのか」といった点で疑念が生じ、使途不明金をめぐるトラブルにつながるおそれもあります。
相続後のトラブルを防ぐには、残高や出入金をこまめに共有したり、遺言や遺産分割協議で使い道の目安をある程度決めておくなどの工夫が必要です。
不動産を相続財産にするメリット
不動産を相続財産として残した場合、現金よりも相続税負担を抑えられる可能性があります。
ここからは、不動産を相続財産にするメリットを具体的に解説します。
相続税評価額を抑えやすい
不動産は、相続税の評価において「現在の時価をそのまま用いる」のではなく、路線価や倍率方式などの独自の基準に従って、時価より低めの金額で評価されることが一般的です。
現金や預貯金が金額どおりに評価されるのに比べ、土地については公的な価格指標を参考に算定するため、結果的に課税対象となる評価額が圧縮されやすいという特徴があります。
例えば、同じ5,000万円相当の財産であっても、現金ではそのまま5,000万円が評価額になるのに対し、不動産で保有している場合には計算上の評価額がそれより小さくなることが少なくありません。
このように評価額が下がることで、最終的な課税遺産総額や相続税額を抑えられる余地が生まれるため、「税負担をできるだけ軽くしたい」という場面では不動産が選択肢になりやすいといえます。
小規模宅地等の特例で節税が可能
自宅や事業用地など一定の要件を満たす土地については、「小規模宅地等の特例」によって相続税評価額を大きく減額できる場合があります。
例えば、被相続人が住んでいた自宅の土地(特定居住用宅地等)であれば、限度面積330㎡まで評価額を80%減額できる(要件あり)など、適用によって大きな節税効果が期待できる制度です。
対象となる土地の用途によって上限面積や減額割合は異なりますが、要件を満たせば相続税の負担を大幅に抑えられる可能性があります。
「自宅を残したい」「事業用地を次世代に引き継ぎたい」といったケースでは、現金より不動産として持っておくことが有利になる場面も多くなります。
賃貸物件ならさらに相続税評価額を抑えられる
賃貸アパートや賃貸マンション、月極駐車場などの第三者に貸している不動産は、通常の土地・建物の評価よりも相続税評価額がさらに下がる仕組みがあります。
建物や土地を他人に貸していると、所有者が自由に利用できない制約があり、その分を反映して評価額が低くなり、相続税負担の軽減につながると考えられています。
加えて、賃貸物件であれば家賃収入というキャッシュフローも得られるため、相続後の生活費や将来の修繕費、さらには相続税や固定資産税の支払い原資としても活用することが可能です。
ただし、空室リスクや維持管理コストも伴うため、立地や入居需要、管理体制なども含めて検討することが重要です。
不動産を相続財産にするデメリット
不動産は、相続人が複数いるケースや、納税資金が潤沢でないケースでいくつか問題が生じます。
ここでは、不動産を相続財産にする具体的なデメリットを解説します。
現金より分割相続が複雑になる
不動産は物理的に分けにくいため、相続人が2人以上いると公平に分割することが難しく、現金に比べて遺産分割が複雑になりやすいという特徴があります。
不動産を相続財産とする場合は、主に次のような分け方の仕組みを理解しておくことが重要です。
- ・現物分割:不動産そのものを分け合う、またはそのまま誰かが取得する方法
- ・代償分割:特定の相続人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭などを支払う方法
- ・換価分割:不動産を売却し、その売却代金を相続人同士で分配する方法
- ・共有分割:不動産を相続人全員の共有名義とする方法
いずれの方法でも、相続人間の調整や合意形成が不可欠です。
条件のすり合わせに時間を要したり、話し合いが長期化・感情的な対立に発展したりするおそれがある点に注意しましょう。
共有分割で共有者全員の同意が必要になる
不動産を「共有分割」した場合、将来の売却や大規模修繕、建て替えといった重要な判断には、共有者全員の同意が必要になることが大きな負担となります。
例えば、兄弟でアパートを共有相続した場合、一方が空室対策としてリフォームを望んでも、他方が費用負担を理由に反対すれば、必要な改修ができず収益悪化につながることもあります。
また、自分の持分だけを売却することも不可能ではありませんが、第三者から見ると利用価値が低く、買い手が付きにくい・価格が大きく下がるといったデメリットもあります。
相続税を一括で納められない可能性がある
遺産の大部分が不動産で、手元の現金や預貯金が少ない場合、相続税を金銭で一括納付することが難しくなる可能性があります。
不動産は短期間で希望どおりの価格で売却できるとは限らず、買い手探しや価格交渉に時間がかかるケースがあります。その結果、相続税の申告・納付期限(原則10か月)に間に合わないリスクがあることを想定しなければなりません。
延納や物納といった特別な納税方法も用意されていますが、利子税の負担や担保提供、厳格な要件・申請手続きが必要になり、誰にでも簡単に利用できる制度ではありません。
そのため、不動産が多い相続では、あらかじめ納税資金をどう確保するかを含めて検討しておくことが重要です。
現金または不動産で相続するときの判断基準
同じ金額の財産であっても、「相続税をどこまで抑えたいか」「相続人が何人いるか」「将来その財産をどう使いたいか」によって、現金と不動産のどちらが適しているかは変わります。
ここでは、相続財産を現金か不動産かで迷ったときの判断基準を解説します。
相続税の節税なら不動産がおすすめ
「とにかく相続税の負担を小さくしたい」という場合は、現金だけでなく不動産をある程度組み込んだ構成にした方が有利になることが多いです。
土地や建物については、相続税を計算する際に採用される評価方法が現金とは異なり、路線価や倍率を使って算出する仕組みになっています。その結果、同じ時価ベースの資産であっても、不動産の方が課税の前提となる評価額が小さくなる傾向があります。
さらに、自宅や事業に使っている土地で要件を満たす場合は、小規模宅地等の特例により評価額を大幅に減額することが可能です。賃貸用不動産であれば、賃貸していること自体が評価を下げる要因となり、現金だけを保有している場合と比べて相続税の負担を抑えやすくなります。
また、賃貸用不動産であれば、賃貸中であること自体が評価額の押し下げ要因となり、仮に同じ5,000万円相当の財産だった場合、現金のみと比べて課税対象額を抑えることが可能です。
分割相続、自由な使い道を望むなら現金
「相続人同士がもめないように平等に分けたい」「受け取った人が自由に使える状態にしたい」という希望が強い場合は、現金を厚めに残しておく方が適しています。
現金なら、法定相続分や家族の話し合いに応じて金額を微調整しやすく、不動産のように分割方法や評価の違いをめぐって議論がこじれるリスクを抑えられます。
また、現金は生活費・教育費・住宅取得・ローン返済・医療介護費など幅広い用途に即座に充てられるうえ、相続税の納税資金としてもそのまま利用可能です。
「将来の使い勝手」と「手続きのスムーズさ」を両立させたい場合には、現金中心の相続設計が選択肢になりやすいといえます。
まとめ
相続財産として、現金と不動産どちらがお得かは、金額に加えて家族関係、相続人の人数、今後その財産の使い道によって答えが変わります。
不動産は節税面で有利になりやすい一方で、分割の難しさや管理コスト、納税資金の確保といったハードルがあります。現金の場合は、分けやすく使いやすい反面、相続税評価額が下がらず税負担が重くなりがちです。
現実的には、「節税を意識して一定割合は不動産で持ちつつ、分割や納税・生活資金に備えて十分な現金も確保しておく」というバランス設計がポイントになります。
「家族が無理なく納得できる相続にしたい」「今の財産の持ち方で本当に問題ないか確認したい」と感じたときは、早い段階で専門家に相談することが、後悔しない相続への近道です。
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