
ご家族が亡くなられ、遺された財産をどう分けたらよいのかわからず、困惑していませんか。
相続財産の種類が多い場合や相続人間で意見が分かれると、遺産分割は複雑化します。
しかし、故人の意思を尊重しつつ家族が円満に暮らすために欠かせない手続きです。正しい知識を持たないまま進めると、法的な不備が生じる可能性があるほか、親族間のトラブルや不公平な形で財産が分割されるリスクがあります。
また、税金の問題や不動産の名義変更など、さまざまな専門知識が必要となるため、適切な方法で手続きを進めなければいけません。
この記事では、4つの遺産分割方法、手続きの進め方を詳しく解説します。
遺産分割とは
遺産分割とは被相続人が亡くなった際に遺した財産(遺産)を、複数の相続人が共同で所有している状態から、それぞれの相続人が単独で所有する状態にするための手続きです。
被相続人が遺言書で財産の分け方を指定していれば、原則としてその内容に従います。しかし、遺言書がない場合や記載のない財産がある場合は、相続人全員で話し合い、分割方法を決定しなければいけません。
主なケースは、以下の通りです。
ケース | 説明 |
---|---|
遺産分割協議による相続 | 相続人全員が話し合いで遺産の分割方法を決定する。合意が得られない場合は調停に進むことも。 |
法定相続分による相続 | 遺言書がない場合、法律に基づいて相続人の権利が決まる。例えば、配偶者と子どもがいる場合、配偶者が2分の1、子どもが残りを按分する。 |
遺言による相続 | 被相続人が遺言書を残している場合、その内容に従って遺産を分配する。遺言書の内容が優先される。 |
相続人ではない第三者への遺贈 | 被相続人が特定の第三者に遺産を譲ることを指定した場合、その第三者が遺産を受け取る。 |
また、以下のようなケースでは、遺産分割で揉めるケースが見受けられます。
ケース | 説明 |
---|---|
相続人以外の人が話し合いに同席する | 相続人ではない第三者が協議に参加し、意見を述べることで混乱が生じる場合がある。 |
疎遠な相続人がいる | 長期間連絡を取っていなかった相続人が突然参加し、意見の不一致が生じる場合がある。 |
特定の相続人が遺産を独占したがる | 一部の相続人が遺産を独占しようとすることで、他の相続人との間で対立が生じる。 |
介護の負担を遺産分割に反映したい | 介護を行った相続人がその負担を考慮して遺産分割を求める場合、他の相続人との間で意見が対立する場合がある。 |
遺言書がない場合の法定相続分の不満 | 遺言書が存在しない場合、法定相続分に基づく分配に不満を持つ相続人が出てくる場合がある。 |
話し合いだけでなく、それがまとまらない場合の裁判所での手続き全体も、遺産分割と呼ぶ場合があります。
遺産分割は、相続人全員の合意があって初めて成立するものです。
遺産分割の主な方法と特徴
遺産分割にはいくつかの方法があり、それぞれ特徴があります。
- ・現物分割
- ・換価分割
- ・代償分割
- ・共有分割
相続財産の種類や相続人の状況、関係性などに応じて、最適な分割方法を選択すれば、円満な解決を目指せるでしょう。また、各方法を事前に理解しておくと、相続人全員が納得できる形で遺産を分けられる可能性が高まります。
ここでは、遺産分割の主な方法と特徴をそれぞれ詳しく解説します。
現物分割
現物分割は遺産をそのものの形で分ける方法で、一般的な遺産分割方法のひとつです。
例えば、自宅の不動産を長男が相続し、預貯金は次男が相続するなど、個々の財産をそのまま相続人それぞれに割り当てる形をとります。不動産や美術品、思い出の品など、金銭化しにくい財産を分ける場合に用いられることが多いです。
現物分割はシンプルで分かりやすい反面、財産の価値に不均衡が生じやすい、あるいは複数の相続人が共有したい財産がある場合に難しいなどの特徴があります。
換価分割
換価分割は、遺産を一度金銭に換えてから相続人で分け合う方法です。
例えば、相続した不動産を売却し、得られた代金を法定相続分や遺産分割協議で定めた割合で分割する形をとります。換価分割は不動産のように分割が難しい財産や、相続人それぞれに公平分配したい場合に適しているでしょう。
しかし、財産を売却する手間や時間がかかるため、売却益に対して譲渡所得税が発生する可能性があります。
代償分割
代償分割は特定の相続人が遺産を単独で取得する代わりに、その相続人が他の相続人に対して、自己の財産から代償金を支払う方法です。
例えば、実家を長男が相続する代わりに、長男が次男や長女に金銭を支払う形が考えられます。代償分割は、自宅などの特定の財産を特定の相続人が引き継ぎたい場合に有効でしょう。
ただし、代償金を支払う側の相続人に十分な資力が必要となるほか、代償金の金額を巡ってトラブルになる可能性がある点に注意が必要です。
共有分割
共有分割は相続財産を分けるのではなく、複数の相続人が共同で所有し続ける方法です。
例えば、相続した不動産を兄弟姉妹がそれぞれ共有名義で登記する形が考えられます。共有分割は現時点で分割せず、将来的に売却などを検討する、あるいは相続人全員が共有することに同意している場合に用いられる場合があります。
しかし、共有状態が続くと、売却や利用について意見が分かれた際にトラブルに発展する可能性があるため、慎重に検討しなければいけません。
遺産分割の進め方
遺産分割は相続人全員の合意が必要となるため、進め方にはいくつかのステップがあります。
- 遺言書の有無を確認
- 相続人の特定
- 相続財産の調査
- 遺言書があれば内容に従って分割する
- 遺言書がなければ遺産分割協議を実施
- 遺産分割協議がまとまらない場合は遺産分割調停を申し立てる
- 遺産分割調停が不成立となった場合は遺産分割審判
これらの手順を理解し、適切に進められれば、円満な相続を実現できるでしょう。
ここでは、遺産分割の進め方をそれぞれ詳しく解説します。
遺言書の有無を確認
遺産分割を進めるうえで最初にすべきことは、被相続人が遺言書を遺しているかどうかの確認です。
遺言書は被相続人の意思が明確に示されているため、原則としてその内容が遺産分割に優先されます。自筆証書遺言や公正証書遺言、秘密証書遺言など、種類がいくつかあるため、自宅や貸金庫、公証役場などで確認しましょう。
自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
遺産分割手続きの流れは、遺言書の有無によって大きく変わります。
相続人の特定
遺言書の有無を確認したら、相続人を正確に特定する必要があります。
相続人は、被相続人の戸籍謄本を出生から死亡までをすべて取得すると確認が可能です。戸籍謄本を辿っていくと、これまで知らなかった相続人が判明する場合もあります。
すべての相続人を漏れなく特定することは、後の遺産分割協議を有効に進めるために欠かせません。
相続人の特定が不正確だと、遺産分割協議が無効となる可能性があるため、重要なステップです。
相続財産の調査
相続人を特定した後に、被相続人の全財産を調査する必要があります。
プラスの財産(預貯金、不動産、株式、自動車など)だけでなく、マイナスの財産(借金、未払金など)もすべて洗い出しましょう。預貯金については金融機関に照会し、不動産は登記簿謄本を確認するなど、客観的な資料に基づいて正確な財産目録を作成します。
相続財産の全体像を把握すれば、公平な遺産分割協議の土台を築けます。
遺言書があれば内容に従って分割する
被相続人が有効な遺言書を遺している場合、原則としてその内容に従って遺産を分割します。
遺言書で特定の財産を特定の相続人に遺贈すると記載されていれば、指示通りに手続きを進めてください。
ただし、遺言書の内容が特定の相続人の遺留分(最低限保障された相続分)を侵害している場合は、遺留分侵害額請求が発生する可能性があります。
遺言書の内容は絶対ではありませんが、まずはその指示を尊重し、手続きを進めるのが基本です。
遺言書がなければ遺産分割協議を実施
有効な遺言書がない、遺言書に記載のない財産がある場合は、相続人全員で遺産分割協議を実施し、遺産の分け方を話し合って決定します。
これには、相続人全員の合意が必要です。
話し合いがまとまったらトラブルの発生を防ぐために、内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印します。
遺産分割協議書は、不動産の名義変更や預貯金の解約などの手続きに必要となる書類です。
遺産分割協議がまとまらない場合は遺産分割調停を申し立てる
遺産分割協議を重ねても、相続人全員の合意が得られず、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる必要があります。
遺産分割調停では裁判官や調停委員が間に入り、相続人それぞれの意見を聞きながら、公平な解決策を探り合意形成を促します。
調停はあくまで話し合いの場であり、裁判所が強制的に結論を出すわけではありません。第三者が介入するため、感情的な対立を避け、冷静な話し合いができる可能性が高まります。
遺産分割調停が不成立となった場合は遺産分割審判
遺産分割調停が不成立となり、どうしても話し合いで解決できない場合は、自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判は、家庭裁判所の裁判官が提出された証拠や主張に基づいて、最終的に遺産の分割方法を決定する手続きです。
審判は調停と異なり、裁判所が判断を下すため、相続人全員が決定に従う義務が生じます。審判まで進むと解決までに時間がかかるほか、精神的・金銭的な負担が大きくなりやすいです。
遺産分割に関するよくある質問
ここでは、遺産分割に関するよくある質問に回答します。
Q.遺産分割のやり直しは可能ですか?
A.遺産分割のやり直しは、原則として相続人全員の合意があれば可能です。
しかし、一度作成した遺産分割協議書を覆すのは容易ではありません。合意形成には時間がかかるだけでなく、再度の話し合いで新たなトラブルが生じる可能性があります。
また、遺産分割後に不動産を売却したり、預貯金を引き出したりして財産がすでに処分されている場合は、やり直しがきわめて困難になるでしょう。
そのため、最初の遺産分割協議は慎重に進め、後からやり直しの必要が生じないよう十分に検討しなければいけません。
Q.遺産分割はいつまでにやればいいですか?
A.遺産分割には法律上、明確な期限は定められていません。
相続税の申告・納税期限(相続開始から10ヶ月以内)までに遺産分割を終えれば、相続税に関する特例(配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など)を適用できます。
遺産分割が間に合わない場合でも、申告期限後3年以内の分割見込み書などを提出すれば、特例を適用できる可能性があります。
しかし、遺産分割を長期間放置すると、相続人の高齢化や認知症、新たな相続人の発生などにより、手続きがより複雑になるリスクがあるため、早めに進めましょう。
Q.遺言と異なる内容の遺産分割は可能ですか?
A.遺言書がある場合でも、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる内容での遺産分割が可能です。
民法では遺言が優先されるとされていますが、相続人全員の自由な意思決定による遺産分割協議は、遺言書の内容よりも優先されます。
しかし、遺言書に遺贈の記載があり、受遺者(遺産を受け取る人)が相続人以外である場合、その受遺者の同意も必要となるでしょう。
相続人全員が納得できる形で遺産を分割するには、遺言書の内容を尊重しつつ、柔軟な話し合いを行わなければいけません。
まとめ
遺産分割とは、亡くなった方の財産を相続人が共同で所有している状態から、それぞれが単独で所有する状態にする手続きです。
主な分割方法には、財産をそのまま分ける現物分割、金銭に換えてから分ける換価分割、特定の相続人が財産を取得し他の相続人に代償金を支払う代償分割、共同で所有し続ける共有分割があります。
進め方は、まず遺言書の有無を確認し、相続人や相続財産の特定から始まります。遺言書があればその内容に従いますが、なければ相続人全員で遺産分割協議を実施する流れです。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停、最終的には遺産分割審判へと進みます。
しかし、遺産分割は、スムーズにいくケースもあれば、そうでないケースもあります。間違った方法や手順で進めると、精神的な負担がかかる可能性があるため、弁護士への相談がおすすめです。
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